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【東京薬科大学】妊娠高血圧症候群の発症メカニズムの一端を解明−胎盤のミトコンドリア酵素「DHODH」の低下が細胞膜をかたくし、胎盤形成に必須の細胞融合を妨げる−|保険ニュース

【東京薬科大学】妊娠高血圧症候群の発症メカニズムの一端を解明−胎盤のミトコンドリア酵素「DHODH」の低下が細胞膜をかたくし、胎盤形成に必須の細胞融合を妨げる−

妊娠高血圧症候群(HDP)は全妊婦の約5〜10%に発症し、母体・胎児の双方に重大なリスクをもたらします。東京薬科大学 薬学部 内分泌薬理学教室の草間 和哉 講師、吉田 佳乃子 大学院生(研究当時)、田村 和広 教授ら、東京医科大学 産科婦人科 西 洋孝 教授ら、慶應義塾大学 産科婦人科 小野 政徳 教授(研究当時、東京医科大学 教授)、九州大学 産科婦人科 加藤 聖子 教授らの研究グループは、このHDPの胎盤で発現が低下しているミトコンドリア酵素「DHODH」が、細胞膜の流動性(やわらかさ)を低下させることで、胎盤の形成に必須の細胞融合(合胞体化)を妨げる仕組みを明らかにしました。本成果は、HDPの発症メカニズムの理解を進めるとともに、治療法開発につながる可能性のある分子標的を示すもので、2026年6月19日に国際学術誌『iScience』に掲載されました。




出典:Yoshida et al., iScience 29, 116163 (2026), DOI: 10.1016/j.isci.2026.116163(CC BY 4.0)一部改変

概 要

HDP *1の根本的治療法はなく、発症の中心には胎盤をつくる細胞(栄養膜細胞)の機能異常があると考えられてきましたが、その分子メカニズムは十分に解明されていませんでした。
研究グループは、HDP患者の胎盤組織を網羅的に解析し、ミトコンドリアの酵素DHODH *2の発現が低下する一方で、インターフェロン誘導膜タンパク質IFITM *3が増加していることを見いだしました。培養した栄養膜細胞を用いた実験から、DHODHの機能を抑えると、転写因子IRF1 *4を介してIFITMの発現が高まり、胎盤形成に必須の細胞融合(合胞体化 *5)が妨げられることを突き止めました。さらに、増加したIFITM(特にIFITM2/3)は細胞膜中の飽和脂肪酸を増やして膜の流動性(やわらかさ)を低下させ、細胞どうしの融合を物理的に妨げること、そしてHDPの重症度指標であるsFlt1/PlGF *6比を上昇させることを明らかにしました。加えて、DHODHの発現が転写因子NR2F1およびZNF554によって制御されていることも見いだしました。
これらの結果は、「胎盤でのDHODH低下 → IRF1の活性化 → IFITMの増加 → 細胞膜の流動性低下 → 細胞融合の障害」という一連の経路が、HDPの発症に関与する可能性を示すものです。

ポイント

■研究の背景
HDPは全妊婦の約5〜10%に生じ、母体・胎児の健康を脅かす重大な疾患ですが、現状は対症療法のみで根本的な治療法は確立されていません。これまで、胎盤の細胞融合(合胞体化)の障害や、細胞の老化・機能異常がHDPに関与すると考えられてきましたが、その引き金となる分子は明らかになっていませんでした。

■主な研究成果
本研究ではまず、HDP患者の胎盤で、ミトコンドリア酵素DHODHが低下する一方、膜タンパク質IFITMが増加していることを発見しました。さらに、このDHODHの低下が、従来知られるインターフェロン/JAK-STAT経路とは異なり、転写因子IRF1を介してIFITMを増やすという新しい仕組みによることを解明しました。増加したIFITMは細胞膜の飽和脂肪酸を増やして膜をかたくし(流動性を低下させ)、胎盤形成に必須の細胞融合を妨げることを、細胞膜の物理的性質のレベルで初めて明らかにしました。そして、この一連の変化が、HDPの重症度の指標であるsFlt1/PlGF比の上昇と関連することを確認しました。

■今後の展望
今回見いだされたDHODH–IRF1–IFITM経路や細胞膜の流動性は、HDPの新たな治療標的や診断マーカーとなる可能性があります。ただし本研究は主に培養細胞と患者胎盤の解析に基づくものであり、今後は動物モデル等を用いた生体レベルでの検証が必要です。また関連研究では、ミトコンドリア機能を高めるケルセチンやリボフラビン(ビタミンB2)が細胞の機能障害を一部回復させることが示されており、栄養・薬理学的アプローチの可能性も示唆されます。

関連する研究成果

この成果は、研究グループが進めてきた「胎盤のミトコンドリア酵素DHODHと妊娠高血圧症候群」に関する一連の研究の中核をなすものです。関連して、以下の2報も報告しています。


DHODHの阻害が、ミトコンドリアと小胞体のストレスを介して栄養膜細胞の「細胞老化」を引き起こして細胞融合を妨げること、ケルセチンとリボフラビンがこれを部分的に回復させることを、ヒト栄養膜幹細胞を用いて示した研究(FEBS Open Bio, 2026年)。

DHODHの阻害が、母体血管をつくりかえる細胞(絨毛外栄養膜細胞)のミトコンドリア機能を損ない、細胞の浸潤能を低下させて細胞老化を促すこと、ケルセチン・リボフラビンが浸潤能を回復させることを示した研究(Journal of Pharmacological Sciences, 2026年)。



これら3報は、DHODHの低下が「細胞融合の障害」(iScience)・「細胞老化」(FEBS Open Bio)・「浸潤能の低下」(J Pharmacol Sci)という複数の経路を通じて胎盤機能を損なうという、全体像を提示しています。

用語解説

*1 妊娠高血圧症候群(HDP):妊娠20週以降に高血圧などを呈する疾患群。母体・胎児に重大なリスクをもたらす。
*2 DHODH(ジヒドロオロト酸脱水素酵素):ミトコンドリア内膜に存在し、核酸の材料となるピリミジン合成に関わる酵素。
*3 IFITM:インターフェロン誘導膜タンパク質。ウイルスの細胞への侵入(膜融合)を妨げることが知られている。
*4 IRF1:インターフェロン制御因子1。遺伝子発現を制御する転写因子。
*5 合胞体化(細胞融合):栄養膜細胞どうしが融合して多核の合胞体を形成する過程。母体–胎児間の物質交換やホルモン産生を担う。
*6 sFlt1/PlGF比:胎盤由来の血管新生関連因子の比。HDPの重症度指標として用いられる。

論文情報

<メイン論文>
タイトル:DHODH regulates trophoblast fusion via IFITM-reduced plasma membrane fluidity: Implications for hypertensive disorders of pregnancy
著者:Kanoko Yoshida, Kazuya Kusama, Junya Kojima, Yu Kawaguchi, Kaito Suzuki, Tomoka Shimooki, Atsuya Tsuru, Mikihiro Yoshie, Masanori Ono, Hirotaka Nishi, Kiyoko Kato, Kazuhiro Tamura
掲載誌:iScience, 29巻, 116163(2026年6月19日オンライン公開) 
DOI:10.1016/j.isci.2026.116163

<関連論文1>
Dihydroorotate dehydrogenase (DHODH) regulates trophoblast syncytialization through organelle stress–induced cellular senescence
掲載誌:FEBS Open Bio, 16巻, 1166–1180(2026年)
DOI:10.1002/2211-5463.70194

<関連論文2>
DHODH inhibition impairs mitochondrial function and extravillous trophoblast invasion: Protective roles of quercetin and riboflavin
掲載誌:Journal of Pharmacological Sciences, 160巻, 143–151(2026年) 
DOI:10.1016/j.jphs.2026.01.001

研究支援

本研究はJSPS科研費 JP23K18345, JP24K01913, JP23KJ1958並びに東京薬科大学 × READYFORクラウドファンディング「子宮内膜症と妊娠高血圧症候群の根治を目指す、治療薬の開発にご支援を」の支援を受けて行われました。

▼本件に関する問い合わせ先
【研究に関するお問い合わせ】
東京薬科大学 薬学部 内分泌薬理学教室
教授 田村 和広
TEL:042-676-4526
E-mail:hiro[at]toyaku.ac.jp ※[at]を@に置換してください
住所:〒192-0392 東京都八王子市堀之内1432-1

東京薬科大学 薬学部 内分泌薬理学教室
講師 草間 和哉
TEL:042-676-4530
E-mail:kusamak[at]toyaku.ac.jp ※[at]を@に置換してください
住所:〒192-0392 東京都八王子市堀之内1432-1

【取材に関するお問い合わせ】
東京薬科大学 入試・広報センター
TEL:042-676-4921
E-mail:kouhouka[at]toyaku.ac.jp ※[at]を@に置換してください
住所:〒192-0392 東京都八王子市堀之内1432-1

【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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