I. 高齢社会での介護の逼迫
日本の高齢者(65歳以上)人口の増加に伴い要介護/要支援認定者数も増加しており、2030年時点で約900万人※1まで増加する見込みとされています。介護士は2040年には272万人が必要となり、2022年の実績からは57万人※2が不足するとされています。
仕事をしながら家族を介護するビジネスケアラーと介護離職を含む家族介護者は2030年には833万人※3、そのうちビジネスケアラーと介護離職による経済損失は9.1兆円※3と推計されています。
また、独居高齢者も年々増加する中で、2024年の孤独死者数のうち76%※4が独居高齢者であることから、増加する独居高齢者の孤独死数の増加も懸念されています。
II. 居住空間における「転倒」
こうした高齢化に伴う社会課題がある中で、要介護原因となる脳血管疾患や心疾患発症等で発生する失神や意識障害による「転倒」や、運動機能低下等による「転倒」を早期発見および予防できれば、多くの要介護化を防げる可能性があると考え「転倒」に注目しました。
運動機能低下による「転倒」は、特定の疾患・フレイル等の状態での発生確率上昇が報告されており、国内の居住空間での発生潜在数を推計すると年間約769万件に上ります。
また、失神と意識障害による「転倒」は、国内の居住空間での発生潜在数を推計すると年間約37万件に上ります。
さらに「転倒」による大腿骨近位部骨折であれば48時間以内の処置、脳梗塞の場合は4.5時間以内※5での血栓溶解療法が必要など、「転倒」後に早急な処置が必要となることが知られており、処置が遅れた場合は、転倒者の健康状態が悪化し、要介護化の一因になり得ます。
III. 高精度レーダーでの「転倒」検知
我々は、室内の壁面や天井に設置できる小型のレーダーセンサを用いて、「転倒」検知ニーズが異なる施設形態である、特別養護老人ホーム、大東建託グループのケアパートナーが運営する認知症高齢者グループホームとサービス付き高齢者向け住宅、ハーフ・センチュリー・モアの住宅型有料老人ホームで実証実験を行いました。
IV. 介護施設での実証・改善効果の考察
通常ケア頻度が高い特別養護老人ホームでは、大腿骨骨折となった「転倒」で、「転倒」から46分後にスタッフ救助が行われた事例がありましたが、その間センサ側では転倒後すぐの通知記録があったため、もしスタッフへ通知していた場合45分早い救助に貢献できた可能性がありました。
また、住宅型有料老人ホームでは、パーキンソン病を罹患している被験者が症状増悪の可能性から急激に「転倒」件数が増加したことがセンサによって定量的に明らかにされたため、部屋のレイアウトを変えるなど転倒予防措置を講じて転倒削減に寄与しました。
V. 高齢社会でのワンストップソリューションの必要性
今回の実証では、介護スタッフよりも早い転倒発見への貢献可能性、転倒傾向から転倒予防への貢献可能性を見出すことができました。これらから、介護施設や住宅に応じた「転倒」の即時検知を起点として救急搬送までつなぐワンストップソリューションが提供できれば、高齢者増加に伴う介護施設における介護業務の効率化、一般住宅に住む高齢者の介護予防、高齢者の住まいの確保などの課題解決に貢献できると考えています。